働くたんぱく質「酵素」とは ~酵素と健康の関係

◆そもそも酵素とは何か◆

近年の健康ブームやダイエットブームで度々「酵素」について耳にするようになりました。
ファスティング(断食)ダイエットや疲れ、便秘、美容にも「酵素」が身体に良いらしい、というイメージだけが先行していますが
「酵素」とは一体何なのか?きちんと理解されている方は少ないのではないでしょうか?

たしかに、体内の酵素力が衰えると健康を維持する上で様々な影響が現れてきます。
ですが、「酵素」について正しい知識を身につけておかなければ、健康に暮らす為に必ずしも良い方向にいくとは限りません。
まずは「酵素」がどのようなものか、どのような働きをしているのか理解を深めてみましょう。

◆酵素のはたらきについて~酵素の正体はタンパク質?◆

まず、あらかじめ理解しておきたいのが、私たちの体にある約60兆個の細胞の中には、体を作るための設計図(DNA)が入っています。
このDNAは体全体の設計図で、DNAの中には細かいパーツごとの設計図が書いてあり、さらに1つ1つの細かい設計図を「遺伝子」といいます。
DNAはその遺伝子の集合体です。

そして人間のDNAには約2万2千個もの遺伝子が存在し、それぞれの遺伝子から作られる物質の中で、とても大切な働きをするもの、、、それが「酵素」です。
よく「酵素」は外から摂取できる栄養素の一種と思われている方がいらっしゃいますが、そうではありません。
「酵素」は栄養素ではなく、体の中で作られるタンパク質の一種で、「触媒(enzyme)」と呼ばれています。

酵素の働きは19世紀初頭にはすでに化学者のあいだで既に知られていましたが、それが微生物の働きによるものか、
生命体以外の物質によるものかはまだわかっていませんでした。結論が出たのはそれから100年以上
経過した1926年、アメリカのジェームズ・サムナーという化学者によって、はじめて酵素の正体はタンパク質であることが証明されました。

「酵素」を触媒という理由は、少し難しくなりますが、生命活動のあらゆる化学反応を仲介する役割のことです。
私たちの生命は、体内でおこる様々な化学反応で保たれています。消化・吸収・循環といった体を維持するための活動や
見る・聞く・歩くといった行動、思考や神経の働き、心臓の拍動・呼吸など、すべての生命活動は色々な成分が化学反応を起こして行われています。
こうした化学反応を仲介する「道具」のような役割を「触媒」といい、この触媒こそが「酵素」の役割です。

酵素栄養学 エドワードハウエル博士

酵素のはたらきについて ~1つの酵素に1つの働き

私たちが毎日食べている食事は体の中で分解され、栄養素として腸から吸収されます。
吸収された栄養素は血管を通り体中の細胞に届けられ、この栄養素を材料として細胞の中で触媒としての「酵素」が作られます。
心臓には心臓の働きに適した「酵素」が、筋肉には筋肉の、腸には腸の、肝臓には肝臓の、膵臓には膵臓の働きを触媒するための「酵素」が作られています。
このように作られる「酵素」は一種類ではなく、それぞれの場所で違う種類の「酵素」が作られており、一つの酵素に一つの働きがあります。
その種類は数千から数万種類も存在すると考えられています。
「酵素」の働きはある栄養素から新しい成分を作り出したり、食べたものを消化したり何かの形を変化させて違うものを作ったりと、体の場所や動きによって様々です

◆食物の消化吸収に関わる「消化酵素」とは◆

酵素が「栄養素」ではなく、様々な働きを触媒するタンパク質の一種であることは前述したとおりです。
では消化酵素と呼ばれるタンパク質はどのような働きをしているのでしょうか?
まず単純に食材を口にするだけでは体の中に適切に吸収されることはありません。
栄養素の固まりである食べ物を分解し、体に吸収されやすい形にまで細かくする作業が必要です。
この作業を触媒しているのが「消化酵素」です。
ただし、「消化酵素」といっても、すべての栄養素を分解できるわけではなく
栄養素の種類、消化器官の種類によって「消化酵素」もさまざまなな種類が存在しています。
分解される栄養素の種類によって、おおまかに「炭水化物分解酵素」、「タンパク質分解酵素」、「脂肪分解酵素」の3種類に分けられます。
以下の図で詳しく解説します。

◆身体に必要なものに変換する代謝酵素とは◆

それでは、消化酵素によって分解され、腸から吸収された栄養素は いったいどこに行くのでしょうか?

炭水化物が分解されたブドウ糖、タンパク質が分解されたアミノ酸 は、腸から肝臓へ運ばれ、最適な形で全身に運ばれます。
また脂肪 はいったんグリセリンや脂肪酸に分解され、リンパ管から血管に入り込み全身に送られます。
こうして吸収された栄養素は体の中で様々な形に変換され、大切な役割を果たすようになります。
この過程で触媒の役目をしているのが「代謝酵素」です。

エネルギー生産に関わる代謝酵

代謝の大切な役割に「エネルギーの生産」があります。
体を動かす為にはエネルギーが必要です。
このエネルギーのやり取りに使われるのが「ATP」です。
私たちは食事から摂取した成分から体の酵素を使いATPを作り出しています。
これは「解糖系」と呼ばれ、ブドウ糖から得られるグルコースをヘキソナーゼなどの酵素が分解してATPを作ります。
また、TCAサイクルといってミトコンドリアという器官で解糖系によって作られた成分と酸素を酵素の力で燃焼させ、たくさんのATPが生産されます。

神経に関わる代謝酵素

脳の中の神経細胞は、神経と神経をつなぐシナプスを介して情報を送ったり受け取ったりして、脳として「考える」「感じる」「動かす」などの働きを生み出しています。こうしたシナプスがきちんと働くためにも、特殊な酵素が働き合って脳の機能を正しく保っています。
また、体のバランス維持には交感神経と副交感神経のバランス維持が大切で、この神経間の情報伝達にも酵素が欠かせません。

タンパク質の合成に関わる代謝酵素

体の筋肉や骨、皮膚や髪の毛や爪、免疫に関わる物質は全てタンパク質でできています。
髪はケラチンという硬質のタンパク質から構成されています。
爪は皮膚の表皮が硬化してできた部分で、髪と同じくタンパク質でできています。
こうしたタンパク質の合成に関わるのも酵素です。
肌の美容に欠かせないコラーゲンは、ヒドロキシプロリンとヒドロキシリジンという特殊なアミノ酸が含まれるタンパク質です。
プロリンとリジンがつながった後で、酵素の働きで特殊なアミノ酸に交換されます。

解毒や抗酸化に関わる代謝酵素

アルコールは胃や腸から体に吸収され肝臓に運ばれます。
そこで活躍するのが解毒酵素です。
まずアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに変換され、次に2型アルデヒド脱水素酵素とよばれる酵素で酢酸に変換されて無毒化されています。
また、体内の活性酸素を除去するのはSOD(スーパー・オキシド・ディスムターゼ)やグルタチオンペルオキシダーゼとよばれる抗酸化酵素です。
他にも様々な毒素の除去に酵素が働いています。

ホルモン合成に関わる代謝酵素

ホルモンは血糖値を下げるインスリンや成長を促す成長ホルモン、性周期をコントロールする女性ホルモンや男性ホルモン、ストレスに対応するセレトニン・アドレナリンなど体の状態を調整するために欠かせません。
この様々なホルモンを作り出す時にも適材適所でホルモン合成の代謝に関わる酵素が働いています。

ここでは代表的な代謝酵素について紹介しましたが、これは体の中の酵素反応のほんの一例でしかありません。
私たちの60兆個もある体の細胞の中では、無数の酵素がそれぞれに与えられた役割を日々正確に果たしてくれています。
食べたものをきちんと消化酵素の力で分解し、吸収した栄養素を使って体の中で代謝酵素の力で生命活動を維持することが、日々の健康維持につながるのです。

◆酵素が働きやすい環境~温度とphの関係◆

私たちの体温は37度前後が最適と言われますが、体内で働く
酵素にとっても最適な温度は37度前後である事がわかってきています。
酵素はタンパク質ですので熱やphによって変性しやすく、簡単に壊れてしまいます。
何らかの原因で変性してその機能を失ってしまった状態を「失活」といいます。

先述した=消化酵素の種類と消化器系の関係=で消化器系の図がありましたが、各器官とそこで働く酵素の環境はそれぞれ違います。
酵素自体は生きているものではなく、それぞれの活性をもったタンパク質であるため、体内の環境を最適な状態に整えてあげることが大切です。
また、低体温でも酵素活性が衰えます。
※低体温の方では酵素が不活発になってしまいます。

◆酵素の働きを助けるパートナーの存在◆

= ビタミン =
酵素の中には「補酵素」が結合してはじめて働くことができるものが多く存在します。この時に補酵素として働くのがビタミンです。その一例をみてみましょう。

ビタミンB1
糖をエネルギーに変えるのに必要
たらこ、大豆、ニンニク、ネギなどに含まれる

ビタミンB2
脂肪をエネルギーに変えるのに必要
レバー、ブリ、イワシ、納豆などに含まれる

ビタミンB3(ナイアシン)
脂肪や炭水化物の代謝に必要
カツオ、マグロ、アジ、サバなどに含まれる

ビタミンB5(パントテン酸
脂質、糖質、タンパク質の代謝に必要
納豆、たらこ、アボガド、などに含まれる

ビタミンB6
タンパク質、アミノ酸の代謝に必要
カツオ、マグロ、サケ、バナナなどに含まれる

CoQ10(コエンザイムQ10)
エネルギー生産、肌・筋肉・神経の再生に必要レバー、カツオ、マグロなどに含まれる

(補酵素としてのビタミンの働き)
この他にも色々なビタミンが補酵素として体の中で酵素の働きを助けています。
ビタミン自体はエネルギー源や体を形作る成分ではありませんが、酵素をきちんと働かせることで体の生命維持に大きな役割を果たしています。

= ミネラル =
ビタミンと並ぶ、大切な酵素のパートナーは「ミネラル」です。
ミネラルは、正確には補酵素とは呼ばず「金属イオン」と呼びますが、酵素の働きを助けるという意味では同じです。

ミネラルにはカルシウム、鉄、ナトリウムなど様々あります。
専門的になりますが、私たちの体を作っている一番小さな単位である「元素」のうち酸素、炭素、水素、窒素を除く元素を総称してミネラルといいます。
また、ビタミンはそれ自身では体の構成成分とはなりませんが、ミネラルは酵素の働きを助けるだけではなく、骨や歯などの体の組織の構成成分としても働いています。

◆腸と酵素の関係◆

免疫作用

腸にはたくさんの免疫細胞があり、細菌や有害物質の侵入をブロックします。
乳酸菌やビフィズス菌等の有用菌はその力を高め活発にします。

食中毒からの防御

善玉菌の活動が活発になると、乳酸や酢酸などの働きにより腸の中は弱酸性になり。
食中毒の原因になる病原性大腸菌、ウェルシュ菌、サルモネラ菌などの増殖を防ぎます

肥満の予防

近年、肥満の人に特徴的な腸内細菌がいることが発表されています。
善玉菌の一種には脂肪の吸収を抑えることで、肥満を防ぐ可能性がある事がわかっています。

美肌作り

善玉菌が増えることで肌荒れの原因となるインドールやスカトールなどの有害物質の発生が抑制されます。
また、保湿力や弾力を高めると考えられています。

生活習慣予防

腸で分泌される消化管ホルモンが糖尿病予防に働いたり、善玉菌がコレステロールを吸着して体の外に排出してくれることもわかっていま す。
又、悪玉菌もなければ働きません。

整腸作用

善玉菌の働きが活発になると腐敗菌による悪臭のない良い便が作られます。
また、ぜん動運動が促進され腸内の不要物を排出し、便秘や下痢を予防改善してくれます。

アレルギー予防

アレルギーは食べ物や花粉などの刺激で免疫細胞が過剰反応することが原因の一つです。
乳酸菌やビフィズス菌は免疫細胞を、中庸にするのに役立ちます。

ストレス緩和

悪玉菌が作る有害物質は神経伝達を阻害したり認知症との関係も指摘されています。
「腸は第2の脳」とも呼ばれ、アルツハイマーの原因と考えられるアミロイドβの抑制につながり、心の状態にも影響を与えると考えられています。

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